屈指のビッグポイント
 ここに来て初めて朝日と青空の見えない朝を迎えた。南よりの風はいつもより強く、辺りが明るくなる頃には雨が降りはじめる。これまで予想以上の好天気が続いたのだから文句は言えない。
 今回はポイントは北マーレ環礁の中では屈指と言われる『オコベティラ』。14年前の初めてのモルディブ旅行で、地中海クラブのファルコルフィシに滞在してダイビングしたとき訪れたところ。
 今日の天候はよくない。時折、烈風を伴った激しいスコールに見舞われ、大揺れに揺れながら約1時間南下する。どの島からも相当に離れていて、これと言った目印もなさそうなのに、しかもこんな悪天候の中でポイントを正確に探し当てる船のオペレーターの勘と眼力に感心させられる。
 このポイント名になっている“Thila”とは“水中にある根”を指す言葉。ここには近接して3つの根がある。水の中は比較的穏やか。流れもあまりない。水深20mほどのリーフに降りて少し進むと一つ目の根に行き当たる。
 高さが10mほどもある大きな根だ。根の周りには数々の魚たちであふれている。さすがモルディブで屈指のポイントだけある。根の壁面はイソバナやクロキサンゴ、色とりどりのトゲトサカ類で飾られている。その周りには、数え切れないほどのハナダイが乱舞している。
 根の上層部には、クマザサハナムロやイワシの群れが右に左に行き交っている。時折、それらの群れが瞬時に方向を転換する。まるでザッ! ザッ!と音が聞こえそうなほどだ。精悍か面構えのカスミアジが群れたちを猛烈な勢いで追いかけている。
 根のふもとは深くえぐられていて、中にはコショウダイやインデアングラントをはじめアカマツカサなどの根魚たちが所狭しと棲みついている。

 二つ目の根に向かう途中で大きなナポレオンに遭遇する。1mほどもある大物だ。正面からの接近を試みるが、あまりフレンドリーでなく、ほぼ2mより近づくのを許してくれない。やむなく頭上を流れて行くイワシの群れを取り入れた図柄でシャッターを切っておく。
 この根もカラフルな数々の腔腸動物と魚たちに包まれて、海中にそびえる巨大なオブジェと化している。いつまでいても見飽きることもなければ、撮り尽きることもない。フィルムの残りが2台とも少なくなっているので、途中デジカメに切り替えて撮り続けて行く。根の窪みには数万尾のキンメモドキがあふれ、その奥の視界を完全に閉ざしている。

 三つ目の根のオーバーハング状の内側から仰ぎ見ると、岩に1mほどの円形の穴が開いている。14年間にも見た懐かしい光景だ。あのときこの穴の向こうをイワシの大群が通過して行くのを撮影したことを鮮明に思い出す。この穴に太いロープの輪がくくりつけられている。恐らく船を係留するためなのだろうが興ざめさせられる。しかし根の周囲で展開される情景は14年前と少しも変わらなくエキサイティング。クマザサハナムロやタカサゴが群れをなして縦横に走り回り、それを追跡するカスミアジやギンガメアジとの間で壮烈なドラマが繰り広げられている。周りにあまたある魅力的な情景がことごとく色あせてしまうほど強烈な光景だ。 

 気持ちの高ぶる中での撮影で上下左右に激しく動き回ったため、いつもよりエアーの消費が早く、気が付いたときエアーは20気圧を切っていた。エグジット前に水深5mで3分間の安全停止の途中でついにエアーが底をつき、ガイドのエアーを使わせてもらう。
 モルディブでのダイビングはすべてドリフトダイビング。安全停止のときフロート(バルーン)を水面に浮かべ、それを目印にボートが向かえに来るというシステムだ。スタッフにカメラを受け取ってもらい下ろされた梯子から船に上がる。まだ雲は低く垂れ込めているが幾分風の治まった海を帰路につく。最高のダイビングだった。   

茶色をしたイソバナ
16-A
   クロキサンゴ                           ウミカラマツ

岩の窪みにくつろぐアカマツカサ
16-B

ハタタテダイの群れ
16-C
   モンガラカワハギ

入り乱れる魚たち
16-D

ハタタテダイの群れ
16-E

クロキサンゴの周りに群れるハナダイ
16-F


イワシの群れに迫る大型の魚たち 右側はハナダイ
16-G

イワシの大群
16-H
   ナポレオン
スカシテンジクダイ
16-J

タカサゴの群れ
16-K